弁護士に依頼せずに民事調停をやってみた話

公開日 2018年9月4日 最終更新日 2023年4月9日

民事調停 裁判所
裁判所、行ったことありますか?

私は学生の時に授業の一環で裁判の傍聴に行ったことがあります。裁判所は空気が張りつめているような、厳かな雰囲気がありました。

犯罪を犯したりしなければ、多分縁のない場所だろうな。

そう思って、日々過ごしていました。

 

ですが、先日裁判所がとても身近なものになるという出来事がありました。

今回ちょっとタイトルが不穏ですが、裁判所にて民事調停を行ったので経過を書いておきたいと思います。

また、今回は全て夫が下調べなどの準備をした上で裁判所へ出向いてくれましたので、夫から聞いた話などをもとに書き進めて行きます。

なぜ民事調停を?

何で今回のようなことになったのかというと、以前より伸び放題の草木が隣地より伸びてきていて、その草木が我が家の敷地を占領し続けたためです。

草が生え散らかしてるだけならまだしも、害虫の発生源にもなっていることが判明し、これはちょっと危ないぞ、と本当に何とかしなければいけない事態にまで発展しました。

何度切るようお願いしても聞き入れてもらえず、当初は裁判を起こすつもりでした。

でも裁判にも種類があるし、どうすればいいのか、弁護士にお願いするべきなのか・・・などと悩みもありました。

裁判所へ相談に行く

市役所などの行政に相談したり、町内会長経由でのお願いも試みましたが、全く動いてくれずついに困ってしまいました。最後の手段として、司法に相談するために裁判所へ向かいます。

当初は「裁判しかないな」と思っていたのですが、裁判所の職員さんは意外なことを口にします。

「民事調停ってご存知です?」

民事調停とは・・・

裁判所には,民事に関する紛争の代表的な解決方法として,民事訴訟と民事調停の二つがあります。訴訟は,裁判官が双方の言い分を聴き,証拠を調べた上で,法律に照らしてどちらの言い分が正しいかを決める制度ですが,調停は,当事者同士の合意によって紛争の解決を図ることを目的とするもので,裁判外紛争解決手続(ADR)の一つです。民事調停は,借金の催促や家屋の明渡しなどの身近な紛争をはじめとして,幅広く利用することができます(債務の弁済が困難となった場合に,経済的再生のために申し立てる『特定調停』という制度もあります。)。

裁判所|民事調停をご存じですかより引用

簡単に言うと、「裁判の一歩手前で、当事者間で解決できるものならしたいよね」といったものです。

「当事者間で直接話し合っても埒があかなかったり喧嘩になったりするじゃん!」
ということのないよう、調停委員というその事例の専門家などが間に入ってくれます。

そして、弁護士に頼まなくても自分で手続きを行うことが可能であること。
これは非常に大きなポイントです。

裁判だったら裁判官、民事調停だったら調停委員。
イメージとしては離婚調停に近いかも。その民事版です。

民事調停の特徴は?

職員さんの話によると、民事調停の特徴は

  • 長期化しない
  • 裁判より費用が安い
  • なのに合意に至ればそれは判決と同じ効力を持つ
  • もし不成立になれば裁判を起こすことができ、訴訟の手数料から民事調停に支払った手数料が差し引かれる
  • 非公開

とのこと。

あれ?もしかしたら裁判より民事調停の方がいいんじゃない?
と思い、色々教えてもらって帰宅しました。

そして、伺った話や頂いた案内を元に必要書類や資料を揃え、後日改めて裁判所に出向くことにしました。

書類を提出

必要事項を書いた書類、現況を撮った写真、我が家の敷地であることを証明する資料(確定測量図、登記)を揃え、簡易裁判所へ向かいます。

事前に簡裁に電話したのですが、直接持って行くと言うと何故か渋り、郵送をオススメされます。
でも郵送だとやりとりに時間がかかるので、直接持って行くことにして出発。

めちゃめちゃチェックが厳しい

簡易裁判所で書類を提出しましたが、ここが一筋縄では行かなかった…

まず証拠の写真ですが、なんと写真現物不可。写真をカラーコピーしたものが必要です。
3部作らなくてはいけないので、カラーコピー代がじゃんじゃんかかりました。

そしてそのカラーコピーした写真の付近に、何月何日にどの場所をどの方角に向けて撮影したものかを記しておかなければなりません。

写真以外にも図面が必要(これは手描きでOK)なのですが、必ず方位を併記する必要があります。

そして申立書。
赤ペンで修正、修正、修正の嵐。

「てにをは」に至るまで相当な修正が入り、おまけに「占有されている面積を特定してくれないと受け付けられない」とまで言われてしまいました。

いやいやいや、今も伸び続けてるんだから特定とか無理よそれ!!!
それに建物があったりして計測なんて簡単にできない。ハードルすごい高くない!?

困っていたところ、担当者の上司らしき人がやってきて、「受け付けてあげなよ」と諭してくれました。
まあ上司がいいというなら…と担当者もあっさりOK。

こうして、上司の鶴の一声によって無事受け付けてもらうことができました。

しかし担当の人も意地悪でやったのではありません。

  • 面積によって民事調停の手数料が変わる
  • もしこの調停が不成立になって訴訟に発展した際は、面積の特定が必要となる

このように、担当者の言うことには理由がありますので担当者を責めることはできません。

むしろ今後を見越して、あえて今のうちに細かく修正・改良点を出したのです。

今回のように面積の特定ができない場合は手数料の最高額を支払うことになるとのことで、それを了承して支払うことにしました。恐らく面積を特定できていたら、手数料は10分の1近くになっていたかもしれません。

この後、近くの郵便局で指定された額面・枚数の切手・収入印紙を用意し、再度簡裁に提出しました。

1円単位まで指定されますが、裁判所の近くの郵便局はさすが慣れているので特に混乱等は起きませんでした。

この収入印紙は手数料、切手は相手方や申立人に発送される郵便物に使用されます。

受理された書類を3通作成され、1通受け取って帰宅。
残り2通のうち1通は相手方に郵送、もう1通は裁判所用です。

ちなみに、提出した資料には番号がふられ、簡裁から電話等で質問や問い合わせが入る際は全てこの番号を指定されて話が進むそうです。今回は問い合わせの電話等はありませんでした。

調停当日

相手方が調停に出席してくることを祈ってこちらも出発。
裁判所へ到着し、受付で民事調停の旨を伝えると待合室へ案内されました。

待合室にはベビーベッドも用意されています。
調停は今回のような民事調停だけでなく家事調停(離婚調停など)もありますので、子どもを連れて調停に出向いている人のために用意されているんだろうな、と思います。

ちなみに、男性用トイレの個室にもベビー用チェアがあるとのこと。
なかったらそれこそ人権問題なので、ちょっと安心しました。

そしてこの待合室、共同であるものの、調停の相手側と鉢合わせにならないように相手側とは別の部屋になっています。
この日も他に調停が行われていたようで、弁護士らしき人と一緒に待っている人がいました。

また、調停時の呼び出しは名前ではなく番号。

この後、呼び出し→調停委員と話す→待合室に戻る、の流れを繰り返します。

調停開始

早速呼び出され、調停委員と顔を合わせます。
調停委員は男女1人ずつでした。

まずは名前や職業の確認、そして世間話を少しして本題へ。
事前に証拠類は提出済なので、調停委員の方もおそらく事前に目を通しているとは思いますが、証拠類の内容を一つずつ再確認する形の質問でした。

そして「どうしたいか」という話をし、また待合室で待つよう言われます。

待合室で待つ間、今度は相手方のターン。相手方が調停委員と話をします。

ちなみに今回、相手方は出席していました。
一番心配なのは相手が欠席して内容がまとまらないことだったので、ここは本当に安心しました。

こちらの要望は・・・

ここで書記官が登場。
調停委員と書記官とこちらの3者で、合意内容の文言を詰めていきます。

相手方に求めるものは何ですか、という話になった時、本来は「根から全部草木を処理してもらうこと」を要望したいところでした。

しかし、相手の敷地に根がある以上、こちらからはそのような要望はできません。
私たちには、相手の敷地に草木の根があることを咎める権利はないからです。

こちらの要望は「伸びてきている草木の越境状態を解消してもらいたい」という点。

しかし、もし相手側が「やる」と言うだけでやらなかったら……?

そうなると困るので、「相手側は越境状態を解消すること。もし相手側が実行しなかった場合は、こちらで越境部分の草木を刈ることを認めること」というような要望にまとめました。

これなら、相手が仮に伐採をしなかったとしても、この要望を認めてさえもらえれば、こちらで草木を刈って自分の敷地を取り返すことができます。

しかし、「これは認められない」と調停委員に却下されてしまいました。

「やる」か「やらないか」が全て。「もしも~なら」は論外

なぜ「もし~~なら」が認められなかったのか。

相手が草木を刈るという調停結果が出たのにも関わらず相手がそれを実行しなかった場合、次の手段として適切なのは自分たちで切ってしまうこと(=自力救済)ではなく、強制執行という手続きに入ることです。

よく耳にする強制執行は財産や動産、不動産の差し押えなどがありますが、今回の場合は司法(の委託先)が草木を刈って相手方に費用を請求するか、私たちが代わりに草木を刈ってその費用を相手方に請求するかになります。

「こちらが代わりに草木を刈ります」ということ一つとっても、まずは強制執行の手続きを踏まなければその行為は認められないのです。

このことから、「もしも実行されなかったら申立人(私たち)が草木を刈る」という要望は認められませんでした。

また、私たちは相当な期間、相手方に「草を刈ってくれ」ということを要望し続けているため、今回の調停では草木を刈り取る期日を2~3週間後まで、ということを主張に入れたかったのですが、裁判所側から「それでは短すぎる」と認められず、期日は翌月末ということになりました。

あまり経緯についての事情は考慮してもらえないようです。

調停にかかった費用は請求できない

そしてもう一つ、こちらから「この調停にかかった費用を相手に負担してほしい」という点を主張しました。

しかし、こちらも却下。

民事調停を起こすのにかかった費用(印紙代やコピー代等)は、相手に請求できないことになっています。
相手も調停に来るために仕事を休んだり交通費を使ったりしているかもしれませんが、同じくこれらの費用弁償を請求することはできません。

これは民事調停の鉄則のようですね。

調停結果

最終的に、

・相手側は草木を刈り取り、越境状態を解消して土地を明け渡す

・将来に渡って草木をこちらに越境させないことを約束する

という結果になりました。

本来ならば調停成立ということになりますが、相手側の提出書類に不備があったため、裁判所からの職権による決定、いわゆる17条決定という形になりました。

調停では,お互いの意見が折り合わず,話合いの見込みがない場合には,手続を打ち切ります。また,話合いの見込みがない場合に,裁判所が適切と思われる解決案を示すこともあります。これを「調停に代わる決定」といいます。この決定は,お互いが納得すれば調停が成立したのと同じ効果がありますが,どちらかが2週間以内に異議を申し立てると,効力を失います。その場合には,訴訟を起こすことができます。

裁判所|調停に代わる決定とはどのような手続なの? より引用

本来は調停がまとまらない際になされることが多い決定のようですが、今回はそういった理由ではなく書類上の事情のため、実際話し合いはまとまっているものの「裁判所側が適切と思われる解決案を出した」という形をとったようです。

そして、申立人・相手側・調停委員・裁判官と全員顔を合わせ、改めて内容の確認を行いました。

この時、本日初めて相手側と顔を合わせることになりました。
不成立に終わったら顔を合わせることはなかったんだろうか・・・

これで無事、調停をこの日だけで終わらせることができました。

後日、特別送達到着

数日後、郵便局から特別送達郵便が届きました。

特別送達郵便とは、裁判所などが差し出して郵便認証司が認証を行う特別な書留郵便です。

特別送達は私が受け取りました。何せ特別送達を受け取るのが初めてで、よく分からないままハンコを持って玄関に出ましたが、郵便局側の様式にフルネームの署名をするだけで済みました。

届いた特別送達の内容は、調停の決定通知書、使わなかった切手の返却、そしてその切手の受領証でした。
この受領証は、裁判所に返信するか持参するかして提出します。

調停の決定通知書は、先日裁判所で確認した内容でした。

ただ、今回は裁判所からの決定という形なので、一定期間に異議申立を行う権利が認められています。
この期間内に異議申立がなければ、自動的に決定の内容が確定します。

今回の場合は、期間内に異議申立がされなかったので決定の内容が確定しました。
この確定により、今回の決定が裁判上の和解と同一の効力を有したこととなります。

無事に明け渡し

今回の民事調停は、厳密に言うと「草を刈ることを求める申し立て」ではなく「草によって占拠された土地の明け渡しを求める申し立て」です。草を刈るという工程を経て、無事に土地が明け渡されました。

紛争解決の手段である民事調停を活用し、ちゃんと解決することができホッとしています。

もちろん民事調停が不調に終わるケースや、合意に至っても合意内容が守られないなどの理由で強制執行や裁判に移行するケースもあると思います。

それでも最初から裁判を起こすことへのためらいや費用面などの心配があるなら、民事調停を利用してみるのも一つの方法ではないでしょうか。

民事調停については簡易裁判所等で詳しく説明を受けることもできます。

民事調停、覚えておいていいかもしれません。

 

民事調停の内容が複雑になりそう、民事調停から裁判に進みそうなど、自力での解決が難しい場合は専門家の助けを借りるのも手です